平成18年度青年・女性建築士の集い  中四国ブロック広島大会
2006年6月10日(土),建築士会 中四国ブロック大会が広島県呉市にある 大和ミュージアムで開催されました.

 

テーマは,SHIFT_THE 建築士会.

 

広島,岡山,山口,島根,鳥取,愛媛,香川,高知,徳島の9県から300名を越える建築士が集いました.

 

この大会において,教育的ウラ指導活動について,荘司和樹が講演させて頂きました.演題は,「建築士による,建築士のための試験制度を考える」です.

 

320席のホール 320席のホールは,こんな感じです
当日の会場風景 当日の会場風景

 

下記に,講演内容の一部を掲載します.

 

製図試験の指導を始めるようになって,受験生のこの試験に対する意識の低さをまざまざと見せ付けられました.一級建築士となって良い建物を作ろうというよりも,とにかく合格してさえしまえば後はどうとでもなると考えている.

 

教育的ウラ指導では,製図試験勉強を教える際には,必ず「コンパクト設計資料集成」を用意するように奨めます.すると,「なんで,設計資料集成なんぞに目を通さなければならないのですか?」と言われます.また,実際の建物を必ず見学するようにと指導します.「すると,どうして,わざわざ建物見学までしなければならないのですか?」と平然と言われるのです.

 

「私は,設計の仕事に携わっていないので,この試験に合格するためのノウハウだけを教えて下さい」とも言われます.

 

なぜ,受験生がそういった考え方をしてしまうのでしょうか?

 

その理由は簡単です.

 

建築士受験生を指導する立場にある方達が,「建築を知らなくても試験のルールさえ知ってしまえば合格できる」というスタンスを前提に指導しているからです.

 

そういった状況のもと ,私達のウラ指導活動が全国の受験生達から注目され始めた最大の理由は,建築士試験の出題傾向が大きく変革し始めたことにあります.試験内容そのものが,実務的な設計力,本質的な計画力をきちんと身につけてなければ,合格しにくいものへと移り変わったためです.

 

中略

 

「出題者があらかじめ用意してくれている解答を見つけ出す能力ではなくて,実態を読み取り取り自らの手で答えを導き出す能力」

 

の育成を目指しました.そのため,ウラ指導では,課題文作成コンペという企画を毎年行っています.誰でも,参加できます.既に合格されている方であっても参加できます.賞金も用意しています.このコンペを通じて,課題文を作る(=問題文を作る)ということの意味を,また,設計するということの本質を,受験生達に体感して頂きたいと思っています.そのためには,設計資料集成を読まねばならないでしょう.実際の建物に足を運び,見学しなければならないでしょう.そういったムーブメントが,この試験に対する受験者層の意識改革に繋がっていくと信じております.

 

中略

 

現在,私は,広島県建築士会福山支部主催の製図講習会に講師として参加しています.そこでは,ある種をまいております.形式的な知識の伝達だけで済まさず,参加者一人一人と向き合って,建築するということの意味と楽しさを指導し続けています.この中から,明日の講師(=教育者)が育っていくことでしょう.そうなれば,わざわざ,東京から私達が足を運ばなくとも,福山という地域自体で,建築士を目指す方達への教育環境を形成することができます.そのとき初めて,

 

「その地域の建築士を,その地域の建築士が育成していく社会」

 

というものが実現します.そこで育まれた建築士達は,先輩建築士達への畏敬の念を忘れず,業界の中にあっても,この建築士会の中にあっても,自らの意思と行動力を持ちえる人材となるでしょう.皆さんの地域でもそういった教育環境の形成を目指して頂きたい.ウラ指導は,そのための協力を惜しみません.

 

福山にもありますが,今,自主勉強会というものが,札幌,東京,大阪,福山,博多の5つの地域に存在しております.この自主勉強会というものは,受験生同士で会場を確保して,互いに協力しあいながら勉強するものです.講習会などとは違って,そこには講師がおりません.東京や大阪などの大都市では,メンバーが30人以上になりますので,会場を確保するのにも一苦労です.15人以上になってくると,会場を確保する係,資料を用意する係,出欠確認をする係,お昼の手配をする係などの役割分担が必要になってきます.それでも皆さん,持ち回りで役割分担を決め,円滑に運営しております.各地域の勉強会を通じて合格をつかみとった建築士達が,翌年には,サポーターとしてその地域の自主勉強会に顔を出し,後輩となる受験生達と一緒になって建築士としての技能の向上に励んでおります.

 

その動きはまさに,私が受験生だった当時の「ウラ指導の掲示板の動き」そのものです.住宅系の設計事務所に勤めている者もいれば,公共建築系の設計事務所に所属する者,構造設計事務所や設備設計事務所,役所の建築指導課に在籍する者,ゼネコンの現場監督をされている方,また,大工さんなどの職人さん達.年齢も住んでいるところも,建築への携わり方もバラバラな人間達で集まり,自分達の能力・経験を補いあいながら,建築士試験の合格を目指していったのです.

 

その結果,知名度が上がったこともあって,ウラ指導ホームページへのアクセス数も,以前とは,比較にならないほど増えました.それに伴い,心ない者達に掲示板を荒されるようにもなりました.また,皆と協力しようとせず,自分の合格のことだけしか考えない利用者も増え始めました.そのため,現在,ウラ指導の掲示板は停めています. おそらく,これが,匿名性の高いインターネット世界の限界なんでしょう.

 

だからこそ,今は,各地域の自主勉強会活動にことさら力を入れております.毎月のように,日本各地に実際に足を運び,直接,受験生達を向き合える機会を増やそうとしています.

 

あるとき,ふと,「そうか,私は,こういうことがしたかったんだなあ」と改めて思いました.
それは,

 

「世代を超えて,様々な職域で建築業界に携わっている者同士で集まって,互いの知識や経験を補い合いながら建築士としての技能を高めあっていける場」

 

を作りたかったのだと.
また,今回,この中四国ブロック広島大会に参加させて頂き,大きく気づかされたことがあります.それは,この建築士会こそが私が望んでいた場であったということです.

 

今回,私が皆さんにお伝えしたかっことは,ただ一つです.
誰も,明日(あす)の建築士会のあり方,建築業界のあり方を用意してはくれません.私達,建築士一人一人が,自らの手で答えを導き出していかねばならないのです.そのためにも「まずは,声に出して,一人一人の思い・考えを伝えあう所から始めればいい」そのように思います.もちろん,上手くいかないこともあるでしょう.諦めたくなる時もあるでしょう.

 

けれども,必ず,上手くいく方法が必ず見つかります.
なぜなら,このセッションⅡのテーマであるように,

 

俺たちの だからです.
(映画『 男たちの大和 』をもじってます.)

 

私達の建築業界だからです.本日は,ご清聴誠にありがとうございました.
(平成18年6月10日 中四国ブロック広島大会にて)

 

※この大会での講演をきっかけに,私は,東京建築士会へ入会.その後,関東甲信越ブロックの理事に東京から選出され,3年後の関東甲信越ブロック青年協の会長として埼玉大会への開催へと結実していきます.埼玉大会については,こちら

 

最後に,広島県建築士会の皆さん,今回のような場を与えて頂き,本当にありがとうございまいました.この場を借りて改めて御礼申し上げます.

 

(社)岡山県建築士会女性部会 情報誌にも掲載されています.